約 3,210,589 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1206.html
レス番号 作品名 作者 補足 み-490 【Sweet smell】《美希編3》 み-490 反比例。心にぽっかり開いた隙間。アタシが欲しいモノはお金じゃないんだって。 み-498 【Sweet smell】《美希編4》 み-498 Side to Side。無邪気から大人へ。彼女たちは今、心も体も成長していく。 み-506 【Sweet smell】《美希編5》 み-506 クローバーと時でも、二人の心はどこかそわそわ。絡める心は時に大胆に、艶かしく。 み-514 【Sweet smell】《美希編6》 み-514 ようやく辿り着いたスタートライン。これが二人の幸せ。さぁ始めよう、愛の続きを。 み-546 【せつなとお酒とバブルバス】 み-546 やりすぎちゃったかも。うーん、でも後悔よりは楽しかった思い出の方が強いかな。ま、二人だけのヒミツでね。 み-553 【みきちゃんとタコさん】 み-553 蒼乃美希の歴史。アカルンでちょっと旅してみる。見えなかった過去、知りたかった過去。そして現在は… み-593 【sweet and sour】 み-593 18禁 人肌恋しく、貴方ともっと近づけたら。甘美な体と体が寄せ合い、そして心は解き放たれる。 み-612 【イースと美希のクリスマス】 み-612 嫌よ嫌よも好きの内。今年は貴方と共に過ごすと決めた。それは運命への第一歩。 み-621 【passion】 み-621 18禁 ウザイ。私に纏わりつくだけで虫唾が走る。何故こうも馴れ馴れしく…。今日もまたされるがままに。されるが…か。 み-674 【未来予想図】 み-674 世の中が便利になりすぎて。簡単に何もかもが手に入ってしまう。そんな日常がどこか寂しくて、物足りなくて。本当の未来はあたしと――― み-700 【微糖】 み-700 ほろ苦い甘さの恋愛。それは成長の証、大人の道標。言葉の奥行き、心の温かさ。今思う、愛する事の喜びを。 み-746 【Day of death】1 み-746 18禁 漆黒の蝶が今宵も冷酷な笑みを浮かべ少女を見下ろす。新たな物語がここから始まる。蒼き彗星は落ちてしまうのか? み-756 【Day of death】2 み-756 18禁 快楽と絶望の狭間で何思う。立ちふさがる女王はまるで楽しんでるよう。瞳の奥の炎は絶対消さない。隙あれば必ず… み-776 【Day of death】3 み-776 18禁 葛藤が繰り返す。プライドと憤りと苛立ちと。瞳の奥には何が写るのか?そして今日もまた――― み-793 【Day of death】4 み-793 己が己であるために。変化する心模様に少女たちは何を夢見る… み-801 【Day of death】5 み-801 消えた親友。ある日を境に変わった彼女。それが意味する物とは。淡いブルーの情景が浮かび上がる… み-837 【蒼色】 み-837 雨。普段は嫌われがちなこの天気も、二人にとっては引き寄せ合うきっかけにもなったり。 新-017 【東さんの甘い休日】 新-017 じんわりとした熱を帯びる、初夏の午後。少女たちは、甘く密やかなハーモニーを奏でる。 新-031 【退屈な午後にスパイスを】 新-031 午後の退屈な授業。それは、彼女たちの秘密の時間。あっ、せんせーっ!東さんが・・・! 新-045 【Day of death】6 新-045 運命の時が迫る。白い日記帳は、何かを語るのか。その時、せつなは?タルトは?ラブと祈里は?そして、傷ついたイースに、美希は・・・。 新-091 【Desire of clover】 新-091 会いたい気持ちが起こした、哀しい奇跡。揺れ動く二人の距離は、やがてひとつの結末を迎える。 新-144 【Fruity】 新-144 七夕の日のエトセトラ。嘘つきで、気まぐれで、意地悪で。でも、どこか憎めない、その恋人の名は・・・? 新-178 【最強ガール】 新-178 手玉に取っていたつもりが話は意外な展開に。雨音と共に、乙女たちのトライアングルが軽やかに鳴り響いて・・・さて、最強ガールは誰でしょう? 新-301 【みきちゃんといーす】 新-301 ある日、パパとママが家族を半分こして、みきちゃんはママとふたりっきりになりました。そんなとき、みきちゃんは公園で、不思議な女の子に出会ったのです。 新-305 【Day of death】7 新-305 せつなが美希に、そして美希がイースに、真実を告げた。鏡を隔てて向かい合った、二人の美希。そして、イースとせつな。そのとき、鏡が再び輝きを放ち…。 新-391 【Day of death】番外編 新-391 18禁。先の見えない時の狭間で、彼女の中に、確かな証を刻み込む。たとえそれが、屈辱と疼きと、刹那の快楽の記憶であったとしても…。 新2-490 「水族館デートは危険が一杯? 美希せつVer.」 新2-490 せつなの初体験の感動を、二人で分かち合えたら素敵よね。でもその為には・・・。完璧すぎる美希たんと、精一杯なせっちゃんの、ちょっとズレてる甘甘珍道中!
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/112.html
「ブッキーありがとっ!サイズもピッタリだよ~。家でもずっと着ちゃうからねっ!」 私をダンスユニットに誘ってくれたラブちゃん。嬉しかった。すっごく嬉しかった。 子供の時からずっと、ラブちゃんは私を大事にしてくれた。 「ラブの洋服のサイズ?えぇ。わかるわよ。 あら~?祈里ちゃん、もしかしてラブにプレゼント~?」 「あっ!あ、あの・・・、えっとぉ、・・・ハイ。。。」 ラブちゃんのお母さんと話すのも何故か、緊張しちゃうんです。 ダンスの練習着をプレゼントしよう!そのアイデアが出るまで実は、相当の時間がかかっちゃいました。 最初はドレスなんて豪華な物を考えたけど、これは・・・ダンス違いでした・・・。おっちょこちょいですね。 途中なんかペアルックまで考えちゃう始末・・・。恥ずかしい 「そうだ!買ってプレゼントするよりも作って渡したら、ラブちゃんきっと喜んでくれる!」 ルーズリーフに書いたアイデアを全部消して、〝手作り練習着〟に大きく◎。 それから毎日、学校・ダンスレッスン・おうちのお手伝い・プレゼント製作と怒涛の日々が待っていました。 かなりハードなスケジュールで大変だったけど、不思議と私は頑張れたんですよ~。 これもラブちゃんのお陰かもしれないって。やっと恩返し出来るって。 あ、プレゼントって何をあげようかなーとか、どれを買おうかなーとか思ってる時がイチバン楽しかったりしませんか? 相手の気持ちを考えたりとか、もらったらどんな反応するのかなーとか。 ピンクの生地を切ったり縫ったりするのが本当に楽しかったです。思い出す度にほっぺが赤くなっちゃって。 ラブちゃんの喜んでくれる顔、それだけで私は十分でした。 「ラブちゃん!あの・・・、コレ。」 「お?何々~???開けちゃってもイイ?」 「一生懸命作ったの。どう・・・かな?」 「どれどれ~? おぉ~!!!!!!!コレって練習着!ブッキー作ってくれたの!?」 「うん。ラブちゃんの好きなピンク色だよ。着てくれたら・・・、嬉しいな。」 「くは~、嬉しすぎるよブッキー!早速着ちゃってもイイ!?」 「うん・・・。」 この時のラブちゃんの笑顔、喜んでくれたあの表情。一生忘れないと思う。 「ブッキーありがとっ!サイズもピッタリだよ~。家でもずっと着ちゃうからねっ!」 「私こそラブちゃんにお礼したい。誘ってくれて本当にありがとう。本当に・・・嬉しかった!」 「ブッキー・・・。」 こうして私の人生、初めてのプレゼントは無事に成功しました。作って良かった~。 あ、いけないいけない!「大好きな人」へのです。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1171.html
冷たいリノリウムの床の上を、ペタペタと歩く。 診察室の横の扉を開ければ、そこは立ち並ぶケージの前。 既に気配を察していたらしい沢山の瞳が、一斉にわたしを見る。 「みんな、おはよう。」 笑顔でそう囁いて、そのひとつに近寄り、扉を開けた。 毎日のように変わる、朝の散歩のパートナー。 今日は、成犬になりたてのシェルティと一緒。 もうすっかり元気になって、走りたくてうずうずしているその子に 手早くリードを取り付け、外に出た。 まだ太陽が昇ったばっかりの、綺麗な薄青の空。 ひんやりとした透明な空気が、わたしたちを出迎える。 いつもの散歩コースじゃなくて、もう少し距離の長いコースを いつものようにペースを抑えず、なるべくこの子のペースに合わせて。 この子に無理をさせない程度に、わたしだけが少し頑張りたいから。 行くわよ、と声をかけて走り始めると、 ワン!という答えと一緒に、リードがピンと引っ張られた。 「こうなったら、特訓しかないわよ!」 ノーザが現れ、そのあまりの強さにみんなで呆然としていたとき 最初に立ち上がってそう叫んだのは、美希ちゃんだった。 すぐさま力強く頷く、ラブちゃんとせつなちゃん。 わたしもコクンと頷いたけど、本当は少し怖かった。 特訓そのものが、怖かったわけじゃない。 四人一緒に特訓したら、わたしの力の無さを、これでもかって思い知らされる気がして。 結局、特訓を通してわたしたちが得たものは、ハートをひとつにすることの大切さ。 そのお陰で生まれた新しい技は、わたしたちに大きな希望を与えてくれた。 でも――。 (持久力が得意分野って言われても、みんなよりも得意ってわけじゃないもんね。) ハァハァと荒い息を吐いて走るわたしの脳裏に 光の尾を引いて飛んでくる、赤いハートがよみがえる。 新しい技・グランドフィナーレで、パッションがわたしにパスするハピネス・リーフ。 この前は、キルンに導かれるままに必死で走って、ようやくキャッチできた。 でもこれから先、もしも追いつけず、取り損ねるようなことがあったら・・・。 (必殺技まで失敗して、迷惑かけるわけにはいかないわ。) 先を走るパートナーが、私を振り向いて、心配そうにクゥンと鳴く。 「大丈夫だよ。さあ、あと少しだからね。」 わたしは何とか笑顔を作ると、歯を食いしばって、なお一層ペースを上げた。 四つ葉になるとき ~第3章:癒せ!祈りのハーモニー~ Episode11:ハピネス・エール、プレア・フォロー 「祈里ちゃん、ワンテンポ遅れてる!」 「は、はいっ。」 今日何度目かのミユキの厳しい声に、祈里が慌ててテンポを上げる。 ターンの途中で、そんな祈里をちらりと見ようとしたせつなだったが、普段より前にせり出した、ラブの頭に邪魔された。 「ラブちゃん!位置をずらさない!」 「へ?あ、はい!」 ラブが一瞬キョトンとしてから、あたふたと自分の位置を確認する。きっと祈里の様子が気になって、無意識に前に出て覗き込みそうになったのだろう。 全くラブらしい・・・と表情が緩みかけたせつなは、その瞬間ミユキの視線を感じて、急いで表情を引き締めた。 土曜日のダンスレッスン。今日はミユキの仕事の都合で、午前中だけの短いレッスンだ。 「はい、今日はここまで。祈里ちゃん。動きにキレが無いけど、何かあったの?何だか疲れてるように見えるわよ?」 ミユキの声が、レッスン中の厳しいものから、優しい声色に変わる。 「すみません。大丈夫です。」 祈里が申し訳なさそうに頭を下げると、ミユキは何か言いかけてから、それを飲み込んで、ほぉっと溜息をついた。 「いい?また倒れたりしたら大変だから、無理だけはしちゃダメよ。」 祈里にそう言ってから、ミユキはそのまま、残りの三人へと視線を動かす。その目が、後は頼んだわよ、と言っているようで、せつなは少し戸惑いながら、小さく頷いた。 「ねぇ、ブッキー。何かあったの?」 ミユキが公園を去るのを待ちかねたように、美希が祈里の正面に立つ。 「何か、って?」 「とぼけないでよ。このところ、少し様子がおかしいわよ?何だか元気が無いみたいだし、ダンスの振りは間違えるし。それに最近、朝ちっとも会わなくなったじゃない。朝の散歩、行ってないの?」 美希の日課である朝のジョギングのコースは、その半分以上が祈里の散歩コースと重なっている。時間も同じくらいだから、二人はしょっちゅう、そこで出くわしていた。それがここ一週間ほど、美希は祈里を見かけることすらしていないのだ。 祈里は、美希の顔から少し目を逸らすようにして微笑むと、タオルでゆっくりと額の汗をぬぐった。 「ううん、お散歩はちゃんと行ってるよ。心配してくれてありがとう、美希ちゃん。でも、わたしは大丈夫だよ。」 「ならいいけど・・・。」 まだ心配そうに祈里を見つめる美希の肩を、ラブがポンと叩く。 「まあまあ、美希たんもブッキーも、続きはドーナツ食べながらってことにしようよ。」 ラブがいつものように、先頭に立ってドーナツ・カフェに向かおうとする。ところが。 「ごめんね、ラブちゃん。わたし、今日は用事があるから、このまま帰るね。」 祈里は、やっぱり申し訳なさそうにそう言って、自分のスポーツバッグを手に取った。 「えっ・・・ブッキー、今日も病院が忙しいの?」 「うーん・・・ちょっとね。じゃあ、また明日。」 曖昧にそう言って歩き出そうとする祈里の背中に、ラブの声が飛ぶ。 「わかった。でも、ミユキさんが言ってたみたいに、無理しちゃダメだよ、ブッキー!」 「ありがとう。」 笑顔で手を振り、駆け去っていく祈里を、三人はただなすすべも無く見送った。 「ブッキー、どうしちゃったのかしら。」 驚きと心配が入り混じったような美希の声に、ラブがウ~ンと考え込む。 「確かに、美希たんがあれほどズバリと訊いてるのに、何も言わないなんて珍しいよね。おまけにドーナツも食べずに行っちゃうなんてさ。」 「ちょっとラブ。アタシ、そんなにキツイ訊き方してた?」 「ピーチはぁん。あんさんは、口を開けばドーナツのことかいな。」 美希とタルトが、同時に抗議の声を上げる。 「ナハハ~、あたし、そんなつもりじゃ・・・。と、とにかく、まずはドーナツ食べに行こうよ。ほら、せつなも。」 ごまかし笑いで、それでもドーナツ・カフェに足を向けるラブに、今まで黙って成り行きを見守っていたせつなも苦笑する。 「はいはい、わかったわよ。」 ラブの後に続いて歩き出しながら、せつなは祈里が去って行った公園の入り口に、心配そうな視線を送った。 ☆ 重厚な赤レンガ造りの塀が、歴史の重みと清楚な雰囲気を醸し出す、私立・白詰草学院。その裏庭を、揃いの体操着を着た六人の少女たちが、一列になって走っていた。列の最後尾を走っているのは、祈里だ。 中高一貫校の割にはそれほど広くないグラウンドは、授業の無い週末も、まるで陣取りゲームみたいに、幾つもの運動部が占拠している。でもこの裏庭には――ウサギ小屋と花壇と、敷地の一番奥にある聖堂へと続く小道があるだけのこの場所には、祈里たちの他に、誰もいない。 花壇の周りをぐるぐると周って、全員が裏門の前を通過し終えたところで、祈里は持っていたストップウォッチを押して立ち止まる。息を弾ませながらタイムを確認すると、同じく立ち止まってこちらを見ている級友たちに向かって、ニコリと笑った。 「うん、始めたときよりずいぶんタイムが伸びたわ。集団のタイムでこれだもの。個人なら、もっと伸びている人もいるはずよ。」 「良かった。じゃあ、山吹さんの提案通り、これから放課後は毎日、ここを走ることにしようね。」 先頭を走っていた、長い髪を後ろでひとつにまとめた少女が、そう言って全員の顔を見回す。 「そうね。ここなら誰の邪魔にもならないし。」 「誰に邪魔されることもないもんねっ。」 上気した顔をほころばせながら、少女たちは元気に笑い合った。 彼女たちは、祈里のクラスメイト。二週間後に行われるマラソン大会で、クラス対抗の駅伝に出場するメンバーだ。祈里のクラスは、運動部の子が揃って個人走の上位を狙っており、駅伝に出るのは、それ以外の子たちが大半だった。 「それにしても、山吹さんが駅伝に立候補するなんて、驚いちゃった。あんまりそういうイメージ無いのに。」 少女の一人にそう言われて、祈里は黙って笑みを返す。 駅伝のメンバーに手を挙げ、練習しようと皆に呼びかけ、練習場所まで自分から提案する――確かに、普段の祈里からは想像できない行動力だ。 「さて、今日はここまでにしようか。みんな、お疲れ様。」 さっきの長い髪の少女が、そう言って皆を見回す。と、その視線が祈里の後ろに流れた。 「あら?あの子、学校に何か用があるのかしら。」 その言葉に振り返った祈里は、裏門の陰からこちらを覗き込んでいる黒髪の少女に気付いて、ポカンと口を開けた。 「じゃあ、わたしたちはこれで。山吹さん、ごきげんよう。」 「ごきげんよう。」 口々に挨拶を交わして教室に着替えに戻る級友たちを見送って、祈里はせつなに向き直る。せつなの方は、去っていく彼女たちの後ろ姿を眺めながら、小首を傾げた。 「ねぇ、ブッキー。『ごきげんよう』って、どういう意味?私には、初めて聞く挨拶だわ。」 せつなの素朴な疑問に、少し強張っていた祈里の表情が柔らかくなる。 「ああ、そうかも。うちの学校では、挨拶は全て『ごきげんよう』なんだけどね。」 祈里はちょっと考えてから、ゆっくりと言葉を続けた。 「『ごきげん』っていうのは、そのまんまの『機嫌』って意味と、その人の健康や状態を示す意味があるの。『よう』は、『良く』って意味ね。 だから朝の『ごきげんよう』は、今日も一日、元気で機嫌良く過ごせますように、っていう意味だし、別れるときは、次に会うときまで、いい状態でいて下さい、って意味になるのかな。あんまり、ちゃんと考えて使ってるわけじゃないけど。」 「へぇ。何だか、ブッキーのいる学校らしい挨拶ね。」 「え、そう?」 「ええ。」 せつなに力強く頷かれて、祈里は少し顔を赤くしながら、いつものようにおっとりと微笑んだ。 「それにしても、珍しいね。せつなちゃんがこんなところに来るなんて。」 「お買い物に行ったら、スーパーでばったりブッキーのお母様にお会いしたの。それで、ブッキーが学校に行ったって教えてもらって・・・。」 それを聞いて、祈里の表情が再び、少し強張る。せつなはそれには構わず、不思議そうに祈里の顔を見つめた。 「マラソン大会の練習なんでしょ?ブッキー、『駅伝』っていうものの、メンバーになったんですってね。さっき、どうして私たちにそのこと言わなかったの?」 「ご、ごめんなさい。ちょっと、その・・・言いそびれちゃって。」 そう言って、ちらりと上目づかいでせつなの顔を見た祈里は、そこにとても心配そうな表情を見つけて、慌てて視線を足元に落とした。 「わたしね、せつなちゃん。」 辺りを見回して、人が居ないのを見定めてから、祈里は再び自分の足元を見つめながら、ポツポツと語り始める。 「前から思ってたんだけど・・・戦ってるときにね、わたしがみんなの足を引っ張っちゃうんじゃないかって思うと、怖いの。」 「・・・・・・。」 せつなが一瞬、この上なく真剣な顔で、祈里を見つめた。 「この前の特訓で、わたしの得意分野は持久力だって言われたでしょ?それって、あくまでもわたしが持っている力の中では、一番得意だっていうだけなのよね。みんなよりも持久力があるってわけじゃないもの。 でも、せめて一番得意なことだけでも訓練して、みんなに迷惑かけないようにしたいな、って・・・」 「それで朝の散歩も、コースを変えて距離を伸ばしてるってわけ?」 「え?どうしてそのこと・・・。」 「さっきの美希とのやり取りを聞けば、予想はつくわよ。」 驚いて顔を上げた祈里に、せつなは優しい表情で、もう一度小首を傾げてみせる。 「でも、それをみんなに話さなかったのは、どして?」 「今みんなに話しても、心配されるだけのような気がして・・・。ほら、わたしって、自信が無いとすぐに顔に出ちゃうから。」 「そういうこと・・・。道理でおかしいと思ったわ。いつものブッキーなら、そういうメンバーになった時点で、真っ先にみんなに話しそうだもの。」 ポツリと呟いたせつなを、祈里はもう一度驚いた表情で見つめる。その顔を見て、せつなは一瞬ハッとしたように目を見開き、すぐさま申し訳なさそうな顔になった。 「・・・ごめんなさい。私、わかったような言い方をしてしまって。」 (せつなちゃん・・・。こんなに毎日一緒に居て、こんなにわたしたちのこと分かってくれているのに、まだ遠慮してるんだ・・・。) もどかしさと愛しさが、祈里の胸を満たす。祈里はせつなの肩にそっと手を掛けると、うつむき加減になった顔を、優しく覗き込んだ。 「ううん。何もかも、せつなちゃんの言う通りよ。いつものわたしなら、きっとすぐにみんなに話してたと思う。」 せつながそっと顔を上げて、祈里の顔を覗き見る。その顔に満面の笑みを返して、祈里は言葉を続けた。 「せつなちゃんがわたしのこと、凄くよく分かってくれてるんだなって、嬉しかった。ありがとう、せつなちゃん。」 せつなの頬が、見る見る赤く染まる。照れたような表情で祈里の顔を見てから、せつなはふぅっと大きな息を吐き出した。 「あのね、ブッキー。」 しばしの沈黙の後、せつなはゆっくりと顔を上げて、静かに口を開いた。 「私は今まで、いろんな特訓を受けてきたけど、その大半は、突き詰めれば得意分野を伸ばすか、苦手分野を克服するかのどちらかだったわ。」 突然始まったせつなの告白に、祈里は一瞬、目を丸くする。が、すぐに真剣な表情になって、せつなの言葉に耳を傾けた。 「この前の特訓で、それぞれの得意分野を伸ばすことを選んだのは、それ自体は間違ってなかったと思うの。私たちは四人で戦うんだから、苦手なところは、仲間同士でカバーし合えばいいんだもの。」 (カバーし合うって言われても、わたしはいつも、カバーされてばっかりだし・・・。) あくまでも淡々とした口調で語るせつなの言葉に、祈里は再び、自分の不甲斐なさを感じて下を向く。そんな祈里とは対照的に、せつなは少し嬉しげに、でもね、と続けた。 「私、この世界に来て、あなたたちに教えられたわ。この前測定したみたいな特性も、確かに人間の力だけど、人が持っている本当に強い力は、心の力、想いの力なんだってことを。」 「ええ。だからハートをひとつにすることが、大切なのよね。」 少し寂しげに頷く祈里の顔をそっと覗き込んでから、せつなは相変わらず淡々とした口調で言った。 「前に、ラブが言ってたことがあるの。小さい頃から、いざとなると一番強くてめげないのは、ブッキーだって。どんなピンチのときも、ブッキーだけは、うまく行くって信じてくれてるんだって。」 「ラブちゃんが?」 まん丸に見開かれた祈里の目を見返して、せつなは少し悪戯っぽく、小さく笑って頷く。 「私にも、それはわかる気がする。ブッキーに「信じてる」って言われたら、本当にそうなりそうな気がするもの。それにね。」 せつなはそこで言葉を切ると、また前と同じ、淡々とした口調に戻った。 「それに戦闘中だって、全員がピンチのとき、パインが最初に立ち上がることが、一番多いわよね。」 「そんなこと・・・。」 信じられないといった表情で呟く祈里に、せつなは噛んで含めるように、ゆっくりと語る。 「この前の特訓で、ソレワターセにやられたときもそうだったじゃない?それから、サウラーのナケワメーケで明日が来なくなったときも、最初に立ちあがったのは、パインだった。それを見て、みんな次々に立ち上がったのよ。」 「あ・・・。」 祈里が言葉も出せずにせつなを見つめる。祈里自身には、それは全く自覚の無いことだった。そんなことを考えるような余裕なんて、無かったからだ。せつなは、そんな祈里にうっすらと笑いかけてから、真剣な表情で言った。 「怖いのは、ブッキーだけじゃないわ。だからこそ、あなたの信じる力は、私たち全員の大きな力なの。あなたが結果を信じてくれているから、私たちは立ち上がれるんだもの。」 「せつなちゃん。」 大きな目から、涙がポロンと零れる。そして次の瞬間、祈里は、くしゅん、と可愛らしくクシャミをした。 「ごめんなさい、ブッキー。体操着のままで立ち話なんかさせちゃって。着替えは?」 せつなが急におろおろと、自分の上着を脱いで祈里に着せかけようとする。 「あ、大丈夫よ、教室に着替えがあるから。ちょっと待っててね、すぐ着替えてくる。」 さっきとは打って変わって、明るく手を振って駆けてゆく祈里を見送って、せつなにも、笑顔が戻った。 程なくして、一人の少女が校舎から出てきた。さっき先頭を走っていた少女だ。律義に門から一、二歩外に出たところで所在無げに立っているせつなに、彼女は不思議そうな視線を向けた。 「あら?山吹さんは?」 「教室に戻って、着替えてくるって・・・。」 「あれれ、行き違いになっちゃった。仕方ない、月曜日に返せばいっか。」 そう呟いて、人懐っこい笑顔を浮かべながら、少女はせつなに近付く。 「そんなところで待ってないで、校舎に入っていてもいいのに。」 (やっぱりブッキーの学校って、ブッキーと雰囲気が似た人が集まるのかしら。) せつなはそんなことを思って、少しだけ可笑しくなる。 「ありがとう。でも、すぐに戻って来るって言ってたから。」 笑顔でそう答えると、そう?と小首を傾げてから、彼女は鞄を開けようとして、何か小さなものを取り落とした。 せつながすぐに屈んで、それを拾い上げる。 「あっ、ごめんなさい。ありがとう。」 立ち上がりながら、手の中のもの――小さな透明のビニール袋の中身を、物珍しそうに眺めているせつなに、少女はそれが何なのかを説明してくれた。 「・・・それで、まずは山吹さんに作ってもらって、それをお手本に、みんなで作ろうってことになったの。彼女、凄く手先が器用だから。それでメンバーで順番に回してね、私が最後だったってわけ。」 そう言って、鞄の中にビニール袋を仕舞おうとする少女に、せつなは恐る恐る、声をかけた。 「あの・・・。お願いがあるんだけど。」 ☆ 翌日の日曜日。 昼下がりのドーナツ・カフェに、祈里は一人で座っていた。 ワゴンの中では、カオルちゃんが鼻歌を歌いながら、ドーナツに粉砂糖を振りかけている。 (みんな、遅いな・・・。) 今日はダンスレッスンはお休みだが、いつものように、みんなでここで会うことになっている。そこで心配かけたことを謝って、ちゃんと話そう、と祈里は決めていた。おそらく美希にはお小言をもらうだろうが、それは覚悟の上だ。 「お嬢ちゃん、待ちぼうけ?じゃあ退屈しのぎに、ドーナツいかが?」 いつの間にか、カオルちゃんがワゴンから出て来てテーブルの前に立っている。 「ありがとう、カオルちゃん。でも、みんなもうすぐ来ると思うから。」 「まあまあそう言わずに。見ているだけで、元気が出ちゃうドーナツだからさ。グハッ!」 相変わらず能天気な声でそう言いながら、カオルちゃんが祈里の目の前に、バスケットをコトリと置いた。 「・・・えっ?」 祈里が思わず声を上げる。それは、いつもドーナツが入れられる藤のバスケットだったが、今日は中身が空っぽだった。代わりに、このバスケットがプレゼントだと言わんばかりに、十字に綺麗なリボンが架けられている。そのリボンに、祈里は大いに見覚えがあった。 「これって・・・」 「じゃ~ん!あたしたちからの、ブッキーへの応援メッセージだよっ!」 「もう、なんで黙ってたの?心配したんだからね。」 「驚かせてごめんなさい、ブッキー。昨日、私が無理を言って、お友達から預かってきたの。」 ワゴンの陰から、ラブ、美希、せつなが現れる。ポカンとしている祈里にニヤリと笑いかけて、ラブがバスケットに架けられたリボンを手に取った。 いや、正確にはそれはリボンではなく、祈里が作った、駅伝チームの鉢巻きだった。 白詰草学院のスクールカラーである辛子色の地に、白い小さな水玉模様の生地。それを細長く縫い合わせ、額の当たる真ん中の部分に、メンバーの人数と同じ、六つの星形のスパンコールを縫い付けたものだ。 まず祈里が作り、それをメンバーがお手本にするために、順繰りに回していたもの――昨日せつなが、メンバーの少女から預かって帰って来たものだった。 ラブは、その鉢巻きの端の部分を、祈里の目の前に広げた。 「ほら!この部分は、せつながお母さんに教わって作ったんだよ。上手でしょ!それで、こっちが美希たん。今度は漢字、間違ってないでしょ?それで~、これがあたし。ブッキーの顔だよっ!」 「ちょっと、ラブ!いまさら漢字のことなんか、蒸し返さないでよっ!」 「え?漢字って、何のこと?」 「なっ、何でも無いのよ、せつな。大したことじゃないの!」 いつものように賑やかに騒ぎ始める仲間たちの隣りで、祈里は目を潤ませて、鉢巻きの一端を見つめる。 細い油性マジックで描かれた似顔絵は、ラブの作。目を糸のように細くし、大きく口を開けた、祈里の満面の笑顔だ。 その隣りには、「祝!駅伝優勝」というカラフルな美希の文字。ちょっと気が早すぎると思うのだが、もしかしたら、リベンジを狙いたかったのかもしれない。 そして一番端には、赤いラメ入りの糸の刺繍で作られた、小さなハートがあった。ハートの下には小さな針目で、「ごきげんよう」と縫い込まれている。 三人三様、でも同じあたたかな想いがこもった、小さいけれど大きなエールに、祈里は空のバスケットごと、鉢巻きをギュッと抱きしめた。 「みんな、ありがとう。それから、心配かけてごめんなさい。」 涙声でぺコンと頭を下げる祈里に、三人は顔を見合わせて、それから揃って笑顔になった。 「さっ、じゃあ、ブッキーの健闘を祈って、みんなでドーナツ・・・」 「せつなちゃん!」 早速注文に走ろうとしたラブが、まだ少し潤んだ、でもいつになくきっぱりとした祈里の声に、思わず立ち止まる。 祈里は、キョトンとした顔でこちらを見ているせつなを真っ直ぐに見つめると、考え考え、言葉を紡いだ。 「あのね。せつなちゃんと、ラブちゃんと、美希ちゃんと、三人はわたしにとって、同じように凄く大切で、三人それぞれ、全然違うの。 ラブちゃんにとっても、美希ちゃんにとっても、そして、せつなちゃんにとっても、きっとそうだと思う。 だからわたしたちは、それぞれが、それぞれの力になれるんだと思う。」 そこで祈里は、鉢巻きに小さく輝く赤いハートをギュッと握りしめ、祈るように目を閉じる。そして再び目を開くと、せつなの目の奥を覗き込むようにして、ゆっくりと穏やかに言った。 「だからね。わたしたちに、遠慮なんかしないで。わたしたちは四人、どんなときも、いつも一緒の仲間よ。」 ラブと美希が、そっと目と目を見交わして、笑顔で頷き合う。 じっと――瞬きもせずに、じっと祈里の目を見つめていたせつなは、絞り出すような声で一言、こう言った。 「ありがとう・・・ブッキー。」 ぴんと張り詰めた糸が緩むように、祈里とせつなが、二人同時にゆっくりと笑顔になる。 「幸せ、ゲットだよ~!」 ラブがバッと親指を突き出したとき、カオルちゃんが、今度は中身がぎっしりと詰まったバスケットを持ってやって来た。 「よぉく考えたら、さっきのバスケット、ドーナツ入ってなかった!グハッ!」 「うわ~っ、こんなにたくさん!」 「ちょっと、カオルちゃん。さすがにこんなには、食べきれないわ。それに、まだ注文してないし・・・。」 無邪気にはしゃぐラブと、困ったような笑みを浮かべる美希。そんな二人を交互に見やって、カオルちゃんもまた、グイッと親指を突き出す。 「いーのいーの。一個百万円で奢ってあげるよ。でも、悔しいけどそっちの空っぽの方が、ずーっと値打ちモンみたいだけどね~。」 四人は顔を見合わせると、誰からともなく、クスクスと笑い出す。やがてそれは明るい笑い声となって、秋の空に溶けた。 ~終~ 新2-271へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/602.html
「行くよブッキー、えいっ」 「きゃあっ、ストップ、ちょっと待ってラブちゃん、衿から雪が入ったの」 キラーン☆ 「ブッキー、あたしが取ったげるよ!」 「えっ!ちょっ…あっ、やあっ!そんなとこに雪なんてないっ…だめぇ…」 ラブの冷たい指が肌をまさぐり、這いまわる。 あっと言う間に下着の中の突起を探り当て、摘んで捻り、捩る。 車庫の陰になり、美希とせつなからは見えないとは言え、祈里は気が気でない。 ラブの指は容赦なく下の突起にまで侵入し始める。 「とろっとろ…ブッキーんなか、あったかいね…」 「…はんっ…」 耳を舐め上げられ、秘密の場所ばかりを弄られ、祈里はもう、立っているのがやっと。 「あたしばっかり暖まっても悪いよね……ほら、ブッキー……」 「あ、ら、ラブちゃん……」 祈里の手を自らの秘所に導くラブ。 「ひゃ、冷た~……どう?あったかい?」 「はぁ……ラブちゃんのここも……とろとろになってる……」 「ん……ブッキーの触って……たら……へ、へへ……あ、あたしってやっぱりエッチなのかな……」 お互いに向き合い、立ったままで大事な部分を弄りあう少女達。 寒いはずなのに、彼女達の頬は赤く上気して、うっすらと汗をかき始めている。 「はぁ……ね、ねえラブちゃん……お、お互いにここ……くっつけ合ったら……どうかな?」 ちょん、とラブの陰核をつついて、祈里が普段の彼女からは予想も出来ない事を口にする。 「あ……あそこ同士を……?あ、あは……ブッキーもエッチだね……」 「ち、違うの!……た、ただあったかくなるんじゃないかなって……」 恥かしがる祈里に、ラブは淫靡な微笑みを返す。 「―――いいよ。じゃあ……脱いじゃおうか……下……」 スル、っと二人の下着が足元まで下ろされる。 そして……暖かく濡れた秘唇同士がキスを交わそうとした―――その時。 「ラブー、どこー?」 「ブッキー……。もう、雪合戦の途中で二人ともどこ行ったのかしら……」 段々近付いてくる、お互いの想い人の声。 やがてそれは息を殺す二人のすぐそばまで―――。 「皆は~ん、オヤツやでぇ~」 「プリップー」 2階からタルトとシフォンの声がし、美希とせつなは顔を見合わせる。 「ラブとブッキー、もう家の中なんじゃない?」 「そうかも知れないわ」 「アタシたちも行きましょ」 雪を踏むふたりの足音が遠ざかってゆき、ラブとブッキーは大きくほーっと胸を撫で下ろした。 「行っちゃった……みたい…だね」 「良かった……」 ふう、と安堵の息を漏らす二人。 その時、ふっとラブは気が付いた。 「……ブッキー……本当は見られそうになって興奮したんでしょ?」 「え!な、何言って―――」 「だってほら―――」 ラブの目線の先には、溢れた蜜を垂らした祈里の太股が。 「すごい……オモラシしたみたいになってるじゃない……」 「い、イヤ!へ、変なこと言わないで!!」 言葉とは裏腹に、はしたなく蜜を吐き出しつづける祈里の秘裂は、美希に見られそうになった事での興奮 がいかに高かったかを物語っていた。 両手で顔を隠す祈里に、ラブはニンマリと笑いかけて。 「じゃあ、さっきの続き。ね、ブッキー……」 祈里の腰を引き寄せ、突き出した自分の腰と密着させる。 くちゅ、と淫らな水音を立てて、二人の少女の秘唇が口付けを交わしあう。 「ンぁ……」 「ん……立ったままだとやっぱりちょっと厳しいかな……ね、ブッキー、そのまま足出して」 「……え……?」 ラブの意図が読めず、不思議そうな顔をした祈里だったが、言われた通り、少し右足を前に出す。 その足を跨ぐような形で、今度はラブが自分の右足を祈里の股の間へと潜り込ませて。 「これで良しっと……ね、触りっこの次はこんなのはどう?擦りつけっこ」 「擦り……つけ……?」 「そう。こうやってね、お互いの太股に―――」 言ってラブは腰を前後に動かし出した。 ぬるっ…ぬる……。 潤滑液で充分に濡れた秘裂は、まるで蛞蝓の通った後のように、祈里の太股に痕を残す。 ラブはまるで押しつぶそうかとするかのように、自らの陰核を擦りつけて。 「ふぁ……こうすると……大事なトコ擦れて……気持ちいい……」 「あ、ああ……ラブちゃん……」 しばらくはラブの痴態に目を奪われていた祈里だったが、やがて生唾を飲み込み、ゆっくり腰をスライド させていった。 「ふあ……ぁ……」 「あ、ああ……ど、どうブッキー?き、気持ちいい?」 「うん……き、気持ちいい……え、エッチなトコ擦れるの……いいよぅ……」 やがて立ったままの姿勢では物足りなくなったのか。少女達は次第に中腰になり―――ついにはその場へ としゃがみ込んだ。 お互いの足の間に挟まれた太股も、湯気を立てるほどの蜜で濡れそぼっていて。 「あ……はぁ……ね、ねぇブッキー……さ、さっき……見つかったらって思って感じちゃった?美希たんに」 「あ……み、見つかりたく……ない……こ、こんな……いやらしい……」 「嘘ばっかり……もし見られたらどうなったかなぁ?」 「も、もし……見られたら……?」 その想像が祈里を高揚させたのか、陰核を擦りつける腰の振りが大きく、激しくなっていく。 「……ブッキーがエッチなコだってバレちゃうね……誰にでも大事なトコ触らせちゃうヘンタイだって―――」 「ち、違う……わ、わたしそんなコじゃ―――」 「ん……じゃ、じゃあ腰動かすの止めて……そしたら信じてあげる……」 「あ、い、意地悪……と、止められない……止められないよう……」 目を潤ませ、口を半開きにした、快楽に蕩けたかのような表情の祈里。 ラブはそんな祈里の口へ、自らの舌をねじ込んでいった。 「ちゅる……ちゅ……はぁ……美味しい……」 「ん……ら、ラブちゃ……んぐ……だ、ダメ……」 「ダメなら大きな声出したら?ん……そ、そしたら美希たん来てくれるかも……」 「ああ……き、来ちゃう……み、美希ちゃんが来ちゃうぅ……」 快感の波に流されるのを防ぐように、お互いのコートの背を爪を立てるようにして握り締めあう二人。 「あ、ああ……も、もうイっちゃいそう……」 「わ、わたしももう………」 「あ……ぶ、ブッキー……い、イク時はさ、み、美希たんの名前呼んで……あ、あたしせつなの名前呼ぶ…… から……!!」 「ああん……そ、そんなの……―――――」 お互いの恋人の名前を呼びながらの絶頂。 それは考えただけで罪悪感と背徳感を高め、少女達の暗い快感を呼び起こしていく。 その腰は速度を増し、やがて―――。 「あ、イク……イッちゃうよせつな――ー!!」 「み、美希ちゃん!ご、ごめんなさい!!ごめんなさい―――!!」 一瞬、激しかった腰の動きが止まった。 その後、快感に強張った身体から同時に力が抜けていく。 「ん……はぁ……はぁ……」 「あ……あ……こ、こんな……」 身体を離し、お互いに雪の上へと背中から倒れ込む。 「あ、あったまりすぎた……ね……あ、あはは……」 「あ……そ、そうね……あ、暑いくらい……」 火照った身体を冷やすように、二人の少女はしばらくそのまま横たわっていた。 * 「もう、どこ行ってたのよ、ラブ」 「ホント。おやつも食べないで」 ラブの部屋。美希とせつなはおやつのドーナツを頬張りつつ、戻ってきた二人に問い掛けた。 「ど、どこへイッたかってい、言われても……あ、あはー」 「ら、ラブちゃん!あ、も、もう食べら……な、なんでもない!!」 しどろもどろな二人を怪訝な顔で見つめるせつなと美希。 ラブはそんな彼女達にわざとらしく大きな声で。 「ま、まあいいじゃない!おやつ食べたらさ!今度はカマクラ作ろ!ね!」 「ふーん、かまくらね……まあいいかも」 「?かまくらって何?美希?」 せつなにかまくらの説明をし出す美希。 そんな二人を見ながら、ラブは祈里に耳打ちする。 「次はさ……二人がカマクラの中にいる時……すぐ外でするっていうのはどう?さっきよりスリルあるかも……」 ラブの誘惑の言葉に、祈里は頬を染めながら。 こくり。 と頷いたのだった。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/20.html
ようやく出来たので投下。 今朝の続きです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「忘れさせて...欲しいの」 ブッキーが私の腕に頭をもたせかける。 私の中で、気持ちの整理がついてきた。 ブッキーは少し引っ込み思案なところがあるが 人付き合いが苦手な私と共通点があり、またとても優しく ダンス合宿でも私の心を優しく溶かしてくれた。 思えば、その頃からブッキー、いや、祈里に対して 友情以上の感情が生まれていたような気がする。 祈里が私のためにダンスの練習着を作ってくれたことを 知ったとき、祈里の表情、祈里の声、祈里の匂い、すべてが 私の心の中に小さな火となって点灯した。 それが今、大きな炎となって燃えあがっている。 格闘後でやや高揚していることもあり、情欲が心を浸食している。 多分、 祈里が思い描いている光景は、きっと 私が望んでいる光景と同じ。 じわり、とあふれるものを感じた。 67 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 48 44 ID 66tdVY2Y 祈里に引き寄せられるままに、大通りの角を曲がる。 2、3本の通りを曲がると、暖簾のかかった駐車場が見えた。 祈里が私の腕を強く掴みながらその中に入る。 人が居ないロビーの壁に、番号が書いたランプが 20ほど並んでいる。 点灯しているものはそのうち3つ。 祈里はそのうちの1つを押した。 出てきたカードを手に取り、足早に 奥のエレベーターに乗る。 「えへへ。ここ1回だけ来たことあるの。」 エレベーターの中で祈里は笑いながら言った。 「強引に連れてこられたけど、逃げちゃった」 私はここがどんな建物なのかをだいたい理解した。 祈里には、人を殺さない程度の護身術を 教えておいた方が良いかも知れない。 エレベーターを降りると、複雑に曲がった廊下を 足早に進み、角の部屋に辿り着いた。 ドアにカードを挿して開け、祈里は私を先に部屋に入れた。 部屋には幅の広いベッドがあり、簡単な椅子と テーブルがあった。 浴室は家にあるものとは異なり、 透明なガラス扉で仕切られていた。 これじゃぁ丸見えじゃないの。 68 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 50 31 ID 66tdVY2Y 急に首に腕が回された。 次の瞬間、唇を塞がれた。 唇を離した祈里の顔は、笑顔とも泣き顔ともつかない 表情だった。涙で目が潤んでいる。 「私、ずっと前からせつなちゃんに憧れてたの...」 「...」 「でも、せつなちゃんはラブちゃんととっても仲良しで、 私なんか入る余地が無いくらい...」 「...」 「でも、ダンス合宿の時から、私の中でせつなちゃんの ことがどんどん大きくなって...」 「...」 「せつなちゃんと、ひとつになりたいって、ずっと思ってた...」 上目遣いで私を見る祈里の表情を見て、 私はもう我慢できなくなった。 69 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 52 06 ID 66tdVY2Y 自分から唇を重ねる。 祈里の口内に舌を滑り込ませると、祈里は間髪を入れず 舌を絡めてきた。 有線の音楽が小さく流れる室内で、舌が絡まる淫靡な音が 響き渡っている。 「んふ...ん...」 「ブッキー...私も...同じ気持ち...」 「ん...二人っきりの時は、祈里って呼んで...」 「祈里...んふ...ん...祈里...」 「んふん...んっ...嬉しい...んふ」 潤んだ瞳、口元から垂れる唾液が、私の興奮を増大させる。 「...お風呂、一緒に入ろう...」 「うん」 70 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 54 06 ID 66tdVY2Y バスタブにお湯をためている間、お互いの体を洗う。 熱帯夜の格闘で私の体は汗まみれになっていたが、 ようやくさっぱりした。 これからまた汗をかくのだろうが。 すでに湯気で浴室内は霧がかかったようになっている。 「祈里...とってもキレイ」 「せつなちゃんだって...」 祈里はウエストのくびれは少ないものの、童顔に似合わず 大きく発育した胸、ふっくらした腰回りが私の鼓動を速め、 下腹部がキュンと締まるのを感じた。 バスタブにお湯がたまると、祈里はバスタブの中に沈めていたボトルを 取り出し、軽く振って中身をお湯に溶かした。 「それ...何?」 「んふふっ...おたのしみ...」 シャワーで石鹸を流すと、ふたりでバスタブに身を沈める。 お湯からいい香りが立ち上っている。 「えっ...」 お湯の感覚が家とは違う。 とろりとしたお湯で、肌に滑らかにまとわりつき、ぬるぬると滑る。 「これって...」 「バスローションなの」 祈里が私の足の間に体を滑り込ませる。 ぬるっと滑った私の足は簡単に開き、祈里の体が正面から ぴったりと密着した。 「...!」 71 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 55 45 ID 66tdVY2Y 「せつなちゃん...いっぱい気持ち良くしてあげる」 祈里の唇が、私の顔を隅から隅まで這い、 祈里の手は私の体をぬるぬると這い回る。 私も祈里の胸に手を伸ばす。 手からこぼれ落ちてしまいそうなほどの大きい房を いやらしい手つきで揉みしだく。 「あっ...うんっ...」 耳元で祈里が声を上げる。 手の中で弄んでいる房から、乳首が掌に硬く当たってくる。 祈里の手が私の乳首をさわさわと弄んでくる。 ばらした指の動きが妙にいやらしく、私の乳首も 固く隆起している。 「あは...んっ...はぅ...ん」 祈里の耳元にキスをしながら、つい声が漏れてしまう。 「祈里...気持ちいい?」 「あんっ...嬉しい...とっても気持ちいい」 「私も...とっても気持ちいい...」 ちゃぷっ...ぴちゃっ...とぷん... お湯の揺れる音と、激しいキスの音。 気持ち良すぎて、頭がぼうっとしてくる。 「せつなちゃん...すごい...私...幸せ...」 すっかり上気した祈里の顔はいつもの引っ込み思案な 祈里ではなく、貪欲に快楽を求めるメスの顔になっていた。 ふたりの右手がお互いの性器をまさぐり出す頃には、ほとんど 会話はなく、揺れるお湯の音と、淫靡なあえぎ声が浴室にこだましていた。 72 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 57 20 ID 66tdVY2Y 「せつなちゃん...」 祈里は私と密着した体を離し、左足を私の右足の上に、 右足を私の左足の下に滑り込ませた。 ぷちゅっ... お互いの恥毛が絡み合い、性器同士が密着した。 「ああんっ...!」 「はうんっ...!」 お湯の中で上気していることもあり、 快感が頭のてっぺんまで突き抜けた。 「や...祈里...これすごい...」 「せつなちゃん...私も...あふんっ...」 腰が、さらなる快感を求めて勝手に動いてしまう。 たまらず、祈里の唇に舌を差し出す。 祈里もすぐに舌を絡める。 唾液がお湯にポタポタと落ちる。 お湯がいっそう激しく揺れる。 「祈里...すごいよ...上も下も...」 「うん...キスしてる...ああうんっ...!」 お互いの突起がぬるりと擦れあう度に、 電気ショックを受けたように体が跳ね上がる。 お互いの唇や首、肩を激しく舐め回しているうちに、腰の動きが 完全にシンクロしてきた。 「や...ダメ...祈里...私もう...!」 「せつなちゃん...私も来る...あああんっ!...」 ふたりとも同時に激しく痙攣した。 ばしゃっ...ばしゃっ...ばしゃっ... お湯が激しく揺れ、バスタブからこぼれ落ちた。 73 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 23 59 35 ID 66tdVY2Y 私の上に祈里が倒れ込んでくる。 二人とも痙攣がしばらくおさまらなかった。 お湯でのぼせているせいか、頭もぼうっとしたままだ。 伏せたまま荒い息をしている祈里のおでこに、 軽くキスをする。 「ありがとう...とっても嬉しい...」 顔を上げた祈里は私の唇に長いキスをした。 お湯を抜いて、シャワーを浴びる。 間違えて水が出てきたのでびっくりしたが、のぼせには ちょうど良かったようだ。 しばらく祈里と嬌声をあげながら、水シャワーをかけ合った。 体を拭いて、ベッドに腰掛ける。 祈里が冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出した。 「せつなちゃんも飲む?」 「うん。ちょうだい」 祈里がひとくちペットボトルから飲み、フタを閉じた。 ボトルが渡されるかと思ったが、次の瞬間唇が重ねられ、 私の口にスポーツドリンクが流し込まれた。 「えへへ。口移ししちゃった」 祈里は私が思っている以上に 奔放な女の子なのかも知れない。 74 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/16(日) 00 00 42 ID 66tdVY2Y 時計を見る。午前2時。 「もうこんな時間!まずいよ祈里。いくらタクシーでもこの時間には...」 「あ、それなら大丈夫。家にはお風呂に入る前に電話しておいたから」 「何て電話したの?」 「タクシーが全然捕まらないので、せつなちゃんと始発まで ビジネスホテルで仮眠しますって」 「...まぁ半分は合ってるわねw」 「そうそうww」 私は裸のまま、ベッドに仰向けに寝そべった。 祈里も裸のまま、横に寝そべる。 「せつなちゃん...」 「ん?」 「私ね...今とっても幸せ...」 「私も...祈里とこうなれて嬉しいわ」 祈里が私の方を向き、瞳の中にお互いを確認する。 瞳の中の私は、とても満たされた表情をしていた。 祈里の表情も、とても穏やかに輝いている。 始発が四つ葉町に付くまで、まだ時間は充分ある。 「祈里...まだ時間は充分あるね」 「うん...そうだね」 祈里の瞳に、ふたたび淫靡な光が宿る。 以下ループwww
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1086.html
冬の夜空に、チラチラと白い結晶が舞い踊る。 寒い日にだけ咲くという、氷で創られた天上の花。 とても小さくて、どこまでも繊細で、ただ一つとして同じ形のない、 それは――――神様からの贈り物。 ゆっくりと、でも絶え間なく、朝から降り続けた雪は、やがて辺り一面を銀世界へと変えていく。 華やかなイルミネーションを、枯れ落ちた葉の代わりに纏った街路樹も、 カラフルな装飾で彩られた、商店街のお店の数々も、 無垢なる少女のように、汚れなき美を讃える純白で覆っていく。 クリスマス・イブの夜。世界中が愛に包まれる夜。 家族、友人、恋人同士。 愛する人と過ごす夜。大切にしたい人と出会う夜。 今夜だけは、奇跡を信じたい。誰もがそう願う、聖なる夜。 そんなクローバータウンストリートの一角で、二つの小さな命が運命の邂逅を果たした。 母親に連れられて、楽しそうに歩く女の子。 肩まで伸ばした柔らかな黒髪。クルクル動く、丸くて大きな瞳。 素顔がわからないほどに、絶やさない笑顔。幸せであることを証明するかのような、純真な可愛らしさを持つ子だった。 服装は、赤いチェック柄のダッフルコート。茶色のブーツ。そして、サンタクロースデザインの、白いボンボンのついた赤い帽子。 まるで、踊るようなステップで歩道を歩き、時々、クルリと回って母親の姿を確認する。 その度に、少女の帽子や肩に積もった雪が、宝石のように輝きながら飛び散った。 そう、幸せな者にとっては、雪は美しくて、やわらかで、優しいもの。 そして、そうでない者にとっては、雪は恐ろしくて、冷たくて、残酷なものだった。 少女がふと足を止める。 街路樹の根元に、土の色に溶け込んでうずくまる、茶色い柴犬。 どこから来たのか、歩き疲れ、力尽きた、生後間もないと思われる小さな子犬だった。 「おかあさん! このこ、いきてる!」 「ほんと、どうしましょう。よりによって、こんな日に……」 「わたし、このこのおせわする!」 「そんなっ、ダメよ! 犬なんて、気安く飼えるものじゃないわ」 「おかあさん、いったでしょ? クリスマスは、かみさまがみてるって」 「それはそうだけど……」 「もし、このこをたすけなかったら、きっと、わたしにサンタさんはこないよ」 「責任を持って、飼えるのね?」 「かうんじゃなくて、かぞくになるの。しんぱいしないで、ずっといっしょよ」 少女は、汚れた子犬を躊躇わずに抱き上げる。 新品の洋服に、泥がつくのも厭わずに。大切そうに、そっと頬を近づける。 母親は、観念してため息を付いた。 恐らくは捨て犬、飼い主を探すのは至難の業だろう。母子家庭の二人暮らしだ、ペットくらい居てもいいかもしれない。 「その代わり、今夜の外食は中止よ。その子を連れて行けないでしょ」 「うん! わたし、おりょうりのおてつだいするね」 「それじゃ返って時間かかっちゃうわよ。それより、その子をお風呂に入れてあげなきゃね」 「まかせて!」 あれほど楽しみにしていた、ファミリーレストランの外食。それが台無しになったにも関わらず、少女は先程より更に明るい表情で笑う。 しかし、足取りは打って代わって静かだった。なるべく揺らさないように、子犬を脅えさせないように歩いた。 言葉が通じると信じているかのように、優しい声で語りかける。 「あなたのなまえ、おもいついちゃった。まっかなおはなのトナカイさんしってる? ルドルフっていうんだって。あなたのおはなもあかいから、ルルちゃん! こんやはクリスマスイブだから、わたしはサンタさんからプレゼントをもらうの。 でも、ルルちゃんはもらえないよね? くつしたなんてはけないもんね。だから、わたしがプレゼントしてあげる。 かわいいくびわと、なんだっけ? ルルちゃんのおへや。『サークルでしょ』そうそう、それ! サンタさんへのおてがみ、かきなおさなきゃ」 「本当にいいの? ヌイグルミ、欲しかったんでしょ?」 「いま、いちばんほしいのは、ルルちゃんのものだもん」 そう言われても、もうヌイグルミは買ってある。今月は生活費を切り詰めなきゃ、と母親は再びため息を付いた。 『クリスマスに愛を込めて(前編)』 四つ葉町公園の中央広場。カオルちゃんのドーナツハウスに、ダンスユニット“クローバー”のメンバーが集まる。 それぞれ四色のジャージの上に、ジャンパーを羽織っただけの格好。それもお馴染みの姿だった。 「ふぅ~、これで年内のレッスンは終わりだね!」 「ミユキさんコーチのレッスンはでしょ? 自主練はまだまだやるわよ」 「たはは、やっぱりそう?」 「美希ちゃん、張り切ってるね」 「私は、楽しいから毎日でも平気よ」 「は~い、お待たせ! カオルちゃん特製、クリスマススペシャルだよん」 「わぁ~! ドーナツっていうか、まるでホテルで出てくるケーキみたい」 「ラブちゃん、ホテルでケーキ食べたことあるの?」 「ないけど、なんとなく……」 「もう、いい加減ね」 「でも、本当に綺麗。ドーナツがクリスマスリースになってるのね」 「お皿と一体化してて、持ち帰りはできそうにないね」 「すご~い、ほんとにきれい」 クリスマスを一週間後に控え、街のあちこちでその準備が行われている。 商店街はクリスマス商品一色で、街路樹や一部のお店には、華やかなイルミネーションが施された。 カオルちゃんのお店も、期間限定商品を用意した。ドーナツの形をクリスマスリースに見立てて、生クリームやフルーツで飾り付けたのだ。 「あれ? なんか一人多いような……」 「あっ、いきなりごめんなさい」 ラブ、せつな、美希、祈里の四人の後ろから、覗き込むようにして一人の少女がテーブルの上を見つめていた。 大きな瞳が印象的な可愛い子。赤いジャンパーに黒いレギンス。背丈は祈里より少し低く、セミロングの髪をポニーテールにまとめている。 ラブに指摘されて、不用意に発言したことに気が付き、口元に手を当てて顔を赤らめた。 挨拶と謝罪を兼ねて、ペコリと頭を下げる。 他人のテーブルの料理を覗き込んで、感想まで口にする。確かに誉められた行為ではなかった。 「あなたは、だあれ?」 「あっ、あのっ、わたしは――――です。四つ葉小学校に通っています」 「ドーナツ好きなの? よかったら食べていかない? あたしのあげる」 「あっ、いえっ! わたしはドーナツというか、クリスマスが大好きなだけで……」 「まあ、そう言わずに。そちらのお嬢ちゃんと、ワンちゃんもどうぞ。いや~おじさんって甲斐性あるよね、グハッ」 「ワンッ! ワンッ!」 「ありがとう、ルルもお礼を言ってます」 いつの間に用意したのか、カオルちゃんが追加でドーナツを運んでくる。片方は、ペット用のフードボウルに入っていた。 嬉しそうにドーナツを口に運びながら、少女は自分のことを話した。 今日はたまたま、お散歩のコースを変えて遠出したこと。ルルと呼ばれる犬が、ドーナツの香りに引き寄せられて、ここまで来てしまったこと。 テーブルに乗っていたドーナツに目を奪われて、今度は少女がフラフラと近寄ってしまったこと。 改めて「ごめんなさい」と謝って、恥じらうように微笑んだ。 「わたし、クリスマスって大好きなの。ルルとも、三年前のイブの夜に出会ったのよ」 「そっか、じゃあ一週間後が楽しみだね」 「今年は、ダメなんだって……」 弾けるような笑みを浮かべた少女の表情が、一瞬だけ翳る。 口にするべきか迷っている様子で、四人で顔を見合わせてから、ラブが続きを促した。 「何がダメなの?」 「今年はお母さんのお仕事が忙しくて、どうしても帰れないんだって」 「そっか。でも、クリスマスの楽しみはそれだけじゃないよ。サンタさんがやってくるじゃない!」 「あはっ、わたしももう五年生だから、さすがにサンタさんは信じてないの」 「あたし……、中学一年生になるまで信じてた……」 「ラブ、それはちょっと……」 「ラブちゃんらしいかも」 「でも、サンタクロースのお話って素敵ね。私も信じてみたかった」 「えっ? お姉ちゃんは信じたことないの?」 「私は、そんな風習がないくらい遠いところから来たのよ」 そう言って、せつなは寂しそうに笑う。 現在と、未来があるだけ幸せ。そうは思っていても、やはり、過ぎ去った幼き日々は取り戻せない。 そんなせつなの様子を、少女は不思議そうに、でも、心配そうに見つめる。 「そうだ! よかったら、あたしたちのパーティーに来ない?」 「そうね、一緒に楽しみましょう」 「えっ、でも……」 「大丈夫よ。お母さんには、アタシたちから連絡しておいてあげる」 「やろうよ、ねっ?」 「うん!」 「ワンッ! ワンッ!」 とっくにドーナツを食べ終えて、ひたすらボウルを舐め続けていたルルが、吠えながらテーブルの周りを駆け回る。 楽しい空気を感じ取ったのだろう。みんなの表情に、再び笑顔が花開く。 「決まりだね! クリスマスパーティーで、みんなで幸せゲットだよ」 「私も料理と飾りつけ、精一杯頑張るわ」 「素敵な一日になるって、わたし、信じてる」 「完璧なアタシとしては、送り迎えをしようかしら」 「いえ、大丈夫です! そこまでしてもらうと悪いから、暗くなる帰りだけお願いします」 「しっかりしてるわね~」 「そこで、どうしてあたしを見るのよ~」 新しいお友達の歓迎会と称して、その後もしばらくドーナツパーティーは続いた。 クリスマスイブの夕暮れ。クローバータウンの街並みが、聖夜を祝う灯火で美しく彩られる。 誰もが待ち望む、素敵な夜の幕開けだ。 その中にあって、一際楽しそうな声が、一軒の家の中から聞こえてくる。 優しい肌色の壁に、ピンクの屋根。温かみのある、赤い色のひさし。 柵に添って張り巡らされたイルミネーションは、サンタクロースとトナカイの模様を描く。 手入れの行き届いたガーデンには、植え込みの木をモールとボールで飾った、大きなツリーが飾られている。 入り口のドアには、手作りのデコレーションリース。クリスマス装飾の数々が、道行く人を楽しませ、訪れる客を歓迎する。 「おかあさん、ローストチキンが焼けたよ」 「はいはい、ちょっと待っててね」 「ラブ、オードブルの盛り付けはこれでいいのかしら?」 「美希ちゃん、お部屋のオーナメントはこんなものかな?」 「そうね、ちょっと貸してみて。どうせなら、うんと派手にしちゃいましょう」 「外の飾りつけは終わったぞ~」 「いや~、見事なものになりましたね、圭太郎さん」 「正さん、手伝ってもらってすみません。それにレミさんも、色々お借りしちゃって」 「いいのよ~、今日は初めてのお客さんも来るんでしょ。張り切る気持ちわかるわ~」 桃園家は、お祭り好きなラブの影響で、クリスマスグッズも充実している。その上で、蒼乃家と山吹家からも色々借りて、かつてない盛大なパーティーを目指していた。 せつなにとって初めてのクリスマスパーティであることに加え、この前知り合った少女も招待していたからだ。 二つ繋ぎ合せたテーブルには、鶏の丸焼きを始めとする料理の数々が、次々に盛り付けられていく。ラブ手製のクリスマスケーキも、もうじき飾り付けが終わる。 コップは、クリスマスデザインのグラスを選んだ。フォークとスプーンは紙ナプキンで綺麗に巻いて、柄に可愛らしいリボンを付けた。 部屋にはクリスマスソングが流れ、棚の上にはたくさんのプレゼントが積み上げられている。 パーティーの準備が完了するまで、もう一息。 「それにしても、あの子遅いね。何かあったのかな?」 「私が迎えに行ってくるわ」 「僕が行こうかい?」 「一人で平気よ。大人が一緒だと驚かせちゃうだろうし」 「じゃあ、あたしが付いてくよ!」 「ラブは残ってて。私はパーティーの準備なんてわからないし、ラブが居てくれた方がいい」 「わたしならいいかな?」 「アタシが行ってもいいわよ」 「美希は残って、飾り付けの仕上げをお願い。それじゃブッキー、行きましょう」 少女の自宅は確認してある。徒歩で二十分ほどの距離にある、大きなマンションだ。 行き違いになるといけないから、日が沈む前に迎えに行きたかった。二人は道を急いだ。 そのマンションのキッチンルームで、少女が忙しそうに動く。IH調理台を使って、母親の夕ご飯の支度をしていたのだ。 メニューは、コンソメ風の野菜スープと、クリームスパゲティ。そして、鶏のモモの照り焼きだ。 本当はから揚げの方が好きなのだが、揚げ物は危ないので許されていなかった。 どうにか盛り付けまで終えて、サランラップで封をした。 「ワンッ! ワンッ!」 「だめよ、ルル。大きな声を出すと追い出されちゃうんだから」 「ワン……」 「はいはい、わかってるって。約束の時間に遅れちゃったね」 ある時期を境に母親の仕事が変わり、帰りが遅くなった。それが経済的な理由であることが、何となくわかる年頃にもなっていた。 少女は飼い犬の世話を一手に引き受けて、家事もいくらか受け持つことで力になろうとした。 お弁当持参の日も自分で用意したし、参観日だって来てもらえなくても我慢した。 遅くなる日は夕ご飯だって作って待ってたし、買い物だってちゃんとこなすようになった。 でも、クリスマスだけは……。少女が楽しみにしているこの日だけは、一緒に過ごしたい。 そんな願いも、ここ数年は叶わなくなっていた。 外出着に着替えつつ、部屋の小さなクリスマスツリーに目を移す。これだけが、この家でクリスマスの装飾と呼べるものだった。 クリスマスプレゼントは毎年もらえているが、もうサンタさんに手紙を書くことはなくなった。 最後に書いたのは、三年生の時だった。 母親の帰りが遅くなって、先に一人で寝てしまった。目が覚めた時、母親は隣で眠ってしまってて、サンタさんにお願いした赤い靴を抱えていたのだ。 「クゥーン、クゥーン」 「平気よ、ルル。サンタさんはいなくても、わたしはクリスマスが大好き」 「クゥーン」 「平気だったら。ほら、ルルがいるし、プレゼントだってもらえる。街もこんなに楽しそうなんだもの」 『お友達の家に、パーティーに呼ばれたので行ってきます。帰りは送ってもらうから心配しないで。もし先に帰ったら、ご飯作っておいたから食べてね』 メモ帳にメッセージを残して、少女は家を出る。買い物に手間取ってしまい、食事の準備が思っていた以上に遅くなってしまった。 クリスマスのお店は、どこも混雑する。それを計算に入れてなかったのが失敗だった。 「さっ、ルル、急ごう! きっとみんな待ってるし、暗くなったら怖いもんね」 「ワンッ! ワンッ!」 はっ、はっ、はっ、はっ、はっ。 少女は、馴染んだ道をひたすらに走る。目的の家の付近はよく知っていた。 この大通りを抜ければ、クローバータウンストリートだ。そこで、優しいお姉さんたちが待っている。 ルルの時もそうだった。やっぱり、クリスマスには素敵な出会いがあるんだって思えて、それが何より嬉しかった。 しかし、こんな時ほど赤信号によく捉まる。 みんなを待たせている心配。暗くなる不安。何より、早く着きたいって気持ちが焦りを呼ぶ。 青信号に変わった途端に、少女は勢いよく飛び出した。 突然、視界がスローモーションに切り替わる。まるで、録画した番組を低速再生しているかのように。 キキキィ――――とタイヤが軋む音が聞こえる。 大きな車が、ゆっくりと目の前に迫る。 逃げなきゃ! と思うものの、何故か身体は言うことを聞いてくれなかった。 そこで少女は目を閉じた。全てを諦めて、来るべき衝撃に備えた。 ドンッ! と鈍い音が響く。しかし、痛みは感じなかった。 気が付くと、目前に迫っていた車の姿はどこにも見えず、少女は道の真ん中でヘタリと座り込んだ。 すぐ側に、ルルが倒れていた。 「どうして?」 そっと手を伸ばすと、何か温かいものに触れた。ヌルっとする黒い液体、その正体に少女は気が付いて……。 「いや……。いやあぁぁ――――!!」 夢なら覚めて欲しい。そう願うかのように、悪夢を振り払うかのように、少女は声の限りに絶叫した。 新-644へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/123.html
お気に入りの洋服。タオルにパジャマ。ラブと一緒に買った小物入れに、美希 からもらったリップと、祈里おすすめのハンドクリームを入れて。 必要なものと大切なものを全て詰め込んで、せつなはトランクの蓋を閉める。 そして、もう一度、彼女は辺りを見渡す。 綺麗に片付けられた、自分の部屋。 忘れ物は、何もない。 Departures, now 「それじゃ」 玄関を出て、せつなは振り向いた。見送りに出てきているのは、あゆみに圭太郎の二人。 「気をつけてね」 「はい」 圭太郎の言葉に、彼女はゆっくりと頷く。まだ何かを言い足りないけれど、何 を言っていいのかわからない。そんな様子を見せる彼に、 「もう、お父さんたら」 苦笑しながらあゆみは、せつなに白の帽子を手渡す。 「はい、これ。今日は暑いから」 「――――ありがとう、お母さん」 つばの広い、リボンのついた帽子。きっと、彼女が今日、白のワンピースを選 んで行くことを知っていて、それに合わせて買ってくれたのだろう。 ちょこん、とせつなは帽子を頭に乗せる。偶然にもそれは、かつて彼女がイー スと呼ばれていた頃と同じ姿。 けれどその目の輝きと、顔に浮かぶ微笑みは、イースだった頃には無かったもの。 「うん、可愛い。とってもよく似合ってるわよー」 「やだ、お母さんったら」 母の言葉に、頬を赤く染める姿も、また。 せつなはふと、見上げる。 ちょうど一年前に、この家に招かれ、桃園家の一員となった。あれから色々あ って、少しずつ本当の家族になっていって。 楽しかったな。感慨にふけりながら、せつなは目を細める。 それでも、今日が旅立ちの日であることには、変わりない。 持てるものは全て、トランクに詰め込んだ。次に戻ってくる時には、思い出を たくさん詰め込んでこよう。 「お母さん、ラブは?」 いよいよ出かけようというのに、姿を現さない彼女の姿に、せつなはあゆみに 問いかける。が、彼女は困った顔をして、二階へと続く階段を見上げるだけ。 「あの子、よっぽどせつなちゃんが行くのが嫌なのね」 「――――そっか」 思わず目を伏せるせつなに、圭太郎が言う。 「気にしなくていいんだよ。せつなちゃんが決めたことなんだから」 「お父さん......」 「そうそう。後は私達に任せて、ね?」 「お母さん......」 暖かく見つめてくる二人に、せつなはゆっくり、はい、と頷く。 本当に、素敵なお父さん、お母さん。彼女は、感謝の念を新たにする。 私、この家に来れて、良かった。 「そろそろ、時間じゃないのかい」 「あ......」 腕時計を見て、せつなは驚きの声を上げる。確かに、思っていたよりも約束の 時間に迫っていて。 「ホント。もう行かないと」 「あの、お母さん。ラブに伝えておいて欲しいことが」 「あら、何?」 少し迷った後、彼女は、本当に伝えたいことを見つけて口にする。 「行ってきます、って」 「うん。わかったわ」 ニッコリと微笑むあゆみに思いを託し、ペコリと頭を下げたせつなが彼女達に 背を向けたその時。 ダダダダッ 階段を駆け下りてくる、足音。そのまま廊下を走り抜け、こちらに向かってくる。 そして。 「せつなぁっ!!」 何も履かずに裸足で飛び出してきたラブが、振り向いたせつなに飛びついてきた。 「せつな、せつな、せつなぁっ!!」 「もう、ラブったら」 最初は驚いていた彼女の顔にも、すぐに苦笑が溢れる。ギュゥ、っと苦しいほ どに抱きしめられながらも、せつなはされるがままになっていた。 その耳元で、ラブが言う。 「行かないでよ、せつな」 「ラブ、無茶言わないの」 答えたのは、あゆみ。だがぶんぶんと首を振るラブに、困った子ね、と言いな がら溜息をつく。 「だったら――――アタシも一緒に行く!!」 「それは――――出来ないわ」 一緒に行きたい気持ちは、せつなも同じだった。けれど、それは絶対に出来ない。 だから口にする。拒絶の言葉を。 ラブも、それはわかっていたのだろう。反発はせず、ただギュッと、より一層 強く、彼女の細い体を抱きしめるだけ。 「もう、大げさよ、ラブ。二度と会えなくなるわけじゃないんだから」 その両の肩に手を置いて、せつなはラブの体をゆっくりと押しやる。抵抗せず に離れた彼女の、俯き加減の顔を覗いて、せつなは笑った。 「すぐにまた会えるわ。そうでしょ?」 「......うん」 頷くラブは、だが、泣きそうだ。 もう、しょうがないな。思いながらせつなは、今度は自分から彼女を抱きしめる。 「大丈夫。私の帰ってくる場所はここよ。そうでしょ?」 そう言った彼女の背中に、おずおずとラブは手を回し、そして。 二人の少女は、抱きしめ合う。別離を惜しむように、優しく、強く。 「そろそろ、行かないと」 どれほどの間、そうしていただろう。せつなはそう言って、ラブから身を離す。 「あ......」 遠ざかるぬくもりに思わずラブは吐息を漏らす。だが彼女は、トランクに手を やって、それを持ち、そして。 「それじゃ。行ってきます」 「行ってらっしゃい」 「本当に、気をつけていくんだよ」 あゆみと圭太郎、二人の言葉に頷いて笑った後、せつなはじっとラブを見つめる。 「ラブ」 肩に置かれた、あゆみの手。うつむいていたラブは、ゆっくりと顔を上げる。 「行ってらっしゃい、せつな......!!」 とびっきりの笑顔で彼女は、そう言った。笑え、笑え、アタシ。涙なんか、 見せちゃいけない――――!! 「ええ。行ってきます、ラブ」 応えるようにニッコリと笑顔を見せたせつなが、背を向ける。 そして彼女は、一度も背を向けることなく。 旅立って行ったのだった。 「もう、ラブったら。裸足でこんなとこまで出てきて」 そう言うあゆみの胸に、ラブは顔を埋め、思いの丈を口にする。感情のままに、 心の赴くままに。 「アタシも、行きたかった――――一緒に行きたかった!!」 まるで子供みたいね。思いながら、あゆみはそっと娘の頭を撫でた。 そして―――― 「あなたが悪いんでしょ!! テストで赤点とって、明日から補修なんだから!!」 「だってだって!! 赤点取ったら林間学校に行けないなんて知らなかったんだもん!!」 「知らなかったからって、赤点取っていいわけないでしょ!!」 「すっごく楽しみだったのに!! 高原で三日間、天体観測しながら過ごす林間学校!! せつなと一緒に行くの、ずっとずっと楽しみにしてたのに!!」 「だから普段からちゃんと勉強しなさいって、あれだけ言ってたでしょ!!」 「せつなだけ行くなんてぇぇぇ」 「自業自得でしょ。せつなちゃんはちゃんと、普段からお勉強してたもの。頑張 ったせつなちゃんには、林間学校で楽しむ権利があるんです!!」 「あぁぁぁぁぁぁっ。アタシのバカ、バカ、バカ!! アタシってば、FUKOぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 その夜。 「ラブ。起きて、ラブ」 「ん......ん? せつな!?」 「しっ。お母さん達が起きちゃう」 「ど、どうして、ここに?」 「アカルンで、戻ってきたの。またすぐに、帰らないといけないけど......」 「そうなんだ。でも、なんで?」 「もう――――ラブに会いたかったからに決まってるでしょ」 「――――クッハー!! せつな、大好きっ!! 幸せ、ゲットだよっ!!」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/42.html
ハンバーグ、オムライス、カレー。 ラブの作るものは、どれも大好き。 でもラブはニンジンが苦手らしい。ハンバーグの付け合せはいつもポテトかほうれん草。 オムライスはグリーンピースしか入れないし、カレーは形が無くなるぐらいまで煮込んで しまう。 「そうだね。好き嫌いは良くない」 ある日、お父さんにそのことを話すと、お父さんはそう言ってうーん、と腕を 組んで考え込んでしまった。 ちなみに私は嫌いなものがない。お母さんやお父さん、それにラブが作ってく れるものはどれも美味しい。ラビリンスでの食事では感じなかった感動を与えてくれる。 だから、ラブがニンジンが嫌いなのがわからない。 ニンジン、美味しいのに。どして? 「そうだ。それじゃあ、今度の日曜日......」 そんなことを考えていると、お父さんが何かを思いついたらしい。話を聞いて みて、私に出来るか不安になったけれど、 「ま、僕に任せておきなよ」 お父さんが胸をドン、と叩いて自信満々に言うので、やってみることにする。 ちなみにお父さん、カッコつけたのはいいけれど、すぐにゴホゴホと咳き込ん でしまった。力いっぱい叩きすぎてしまったらしい。私が思わず笑ってしまうと、 お父さんもナハハ、と一緒に笑い始める。 本当に、お父さんは、いい人だ。 Likes and Dislikes 日曜日。 「今日の料理、お父さんとせつなが作るんだって?」 「ええ。さっき一緒に買い物に行って、もう作り始めてるところよ」 遊びから帰ってきたラブが、鞄を下ろしながらお母さんに聞いている。私はそれを 横目で見ながら、慎重に包丁を扱う。ラブやお母さんみたいに、コンコンコンとリズ ム良くは出来ない。コン、コンとゆっくりと切らないと、指を切ってしまいそう。コ ツを掴むには時間がかかりそうだ。 エプロンは、お母さんに買ってもらった。お腹にうさぎのアップリケが付いて いるのが、ひそかなお気に入り。今日、初めて使うのだけど、あんまり汚したくない と言ったら、お父さんに笑われた。確かに汚れてもいいようにするのがエプロンなん だけど......ね? 「せつなー、何、作ってるの?」 「それは後のお楽しみ。先にシャワーでも浴びてきたら? 汗、かいたでしょ」 「はーい。やー、せつなのご飯、すっごく楽しみ♪」 言いながらお風呂場へ向かったラブだったけれど、しばらくして、 「つめたぁぁぁぁい!!」 悲鳴が聞こえてきた。ビックリして、危うく包丁を落としそうになってしまう。 その後すぐに、トテトテと裸足の足音がして、 「お母さーん、シャワー、熱くならないんだけど」 バスタオルを体に巻きつけたラブが、リビングのドアを開けて飛び込んできた。 あらあら、と立ち上がったお母さんと一緒にラブが見に行って、しばし。私が 料理の最後の仕上げをしていると、困ったような顔でお母さんが戻ってきた。 「お父さん、給湯器が壊れちゃったみたいなんだけど」 「ホントかい? そりゃ参ったな」 頭をかくお父さん。ラブはといえば、冷たいシャワーを浴びてしまったのか、 頭から水滴をしたたらせていて。ちょっと強めの冷房が寒いのか、足踏みをしな がら体を震わせている。そんなに冷たかったのかしら。 「明日、修理に来てもらうとして、今日はどうしようかしら」 「うーん......そういえば、近くに銭湯が出来たって、この前、言ってな かったっけ?」 「ああ、そういえば」 その話は私も聞いた。なんでも最新の設備を整えた、スーパー銭湯とかいうも のらしい。何がスーパーかはわからないけれど。 「アタシも知ってる!! 確か、ジャグジーとか、バラの湯とかがあるんだよね!!」 さっきまでの凹みはどこへやら。ラブは目を輝かせてそう言った。バラの湯、 がどんなものか想像出来なかったけれど、ラブが楽しそうだから、きっと楽しい ものなのだろう。 「マッサージ機もいっぱい揃ってるって話だったよね、確か」 「ええ、それに美容にいい温泉もあるって蒼乃さんのところで聞いたわ」 「じゃあ、決まりだね。今日はご飯を食べたら、そこに行ってお風呂に入ろうか」 「やったーっ!!」 ビシッ、と腕を上げるラブ。ああ、そんなに動いたら。 「って、お?」 案の定、体に巻いていたバスタオルがパサリ、と床に落ちる。慌てて胸を隠し ながら屈みこみ、バスタオルを拾うラブ。 「はしゃぎ過ぎよ、ラブ。銭湯ではそんな恥ずかしい真似、しないでね」 言いながら苦笑するお母さんとお父さん。呆れ混じりに見ていると、ラブと目 が合って。 「ニハハ」 照れ臭そうに笑うラブに、やっぱり私も苦笑してしまったのだった。 「せつなー、まだー?」 「もう出来たわ。持っていくわね」 髪を拭いて着替えたラブが、食卓で催促してくるのに、私はそう答えた。ちら り、と見上げるお父さんの顔。うん、と頷かれて、私も頷き返す。この作戦がう まくいくかは、私次第なのだ。 「お待たせ、ラブ、お母さん」 「わーい、待ってましたっ!! せつなの初めての手料理だー」 喜ぶラブの前に、私は皿を置く。 「うわー、美味しそ......う!?」 ギリギリ、と硬い動きでこちらを見るラブ。 「ね、せつな? 何だかすっごく、オレンジ色なんだけど......?」 「そう? 気のせいじゃない?」 私がラブの前に置いたのは、お父さんと一緒に作った肉じゃが。ニンジン多目の。 特にラブのお皿にはたっぷりニンジンが入ってる。確かに見た目は、すごくオレ ンジだ。 「ニ、ニンジン......」 「ラブ? まさか、せつなちゃんがせっかく作ってくれたものを食べない、なん て言わないわよね?」 打ち合わせをしていたわけでもないのに、お母さんはちょっと意地悪く笑いな がらそう言う。私は、悲しそうな顔を作って、 「ラブ......私の肉じゃが、食べてくれないの?」 「う......」 ラブは、私と肉じゃが、両方を交互に見て、やがて観念したのか、 「いやー。美味しそうだなぁ、せつなの肉じゃが。すっごく美味しそうっ!!」 わざとらしくそう言った。半分、やけ気味だったけれど。 私はこっそりと胸を撫で下ろす。これで作戦の第一段階は完了だ。 そう。第一段階。 この後にまだ、第二段階が残っている。 「ちゃーんと、残さず食べないとねー。せつなちゃんが作ってくれたご飯。せつ なちゃんは、ラブが作ったもの、全部食べてるもんねー?」 ニコニコとするお母さんの前に、お父さんがはい、と二品目の器を置いた。 「それじゃお母さんも、これをちゃーんと食べないとね」 「う......」 今度はお母さんが、顔を強張らせる。私が作った二品目は、ゆがいたほうれん草。 「お母さん、まさか残すなんて言わないよねー? せつなが愛情込めて作った、 初めての手料理を?」 ここぞとばかりに言い募るラブ。散々言われた仕返しのつもりなのだろうか。 お母さんは無理矢理な笑顔を作って、 「も、もっちろん、全部食べるわよ。ホント美味しそうー。手が込んでるわー」 ――――お湯に通して、鰹節を乗せるぐらいしかしてないんだけれど。 でも、作戦、第二段階も成功みたい。 「さぁさぁ、皆で食べようか。せつなちゃんの手料理、美味しそうだねぇ」 『ム』 朗らかなお父さんの笑顔に、ラブとお母さんが視線を交し合う。多分、気付い たのだろう。今回の作戦の立案者が誰なのか、ということに。 「さぁて、晩酌、晩酌と」 楽しそうに缶ビールの蓋を開けようとするお父さんだったが、 「あらぁ、お父さん? せっかくせつなちゃんが料理を作ってくれたって言うの に、ビールなんか飲む気なのかしら?」 「そうだよー、お父さん。酔っ払ったら、せつなの料理の味がわからなくなっち ゃうじゃなーい」 お母さんが缶を取り上げ、ラブがお父さんのコップを奪う。 二人とも笑顔だけれど、ちょっと意地悪な笑顔だ。 「ええー。そんなぁー」 情けない顔と声で抗議するお父さん。だけどお母さんもラブも、返す気は無い らしい。 「クスクスクス」 皆の会話と態度に、私はこらえきれず声を出して笑ってしまう。一瞬、私の方 を見た皆も、やがて、 『アハハハハ』 揃って笑い出す。食卓は、とても明るい笑い声に包まれて。 「それじゃ、改めて、いっただっきまーす!!」 『いただきます』 その日の夕御飯は、いつもよりたくさん笑って、会話も弾んだ。 みんなでおうちで夕御飯。楽しい。幸せ。 私、本当に、この家に来れて、良かった。 ありがとう。ラブ。お父さん。お母さん。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/409.html
「あたしとせつなが美希タン達、タルト達みたいに、昔から知りあってて、 それでお互いのことを好きだって結論になったなら ……こんな気持ちになることもなかったのかな。 それだったら、あたし……」 「ピーチはん」 タルトがラブの名前を呼ぶ。 その短い声の中に、普段の彼からは想像もつかない真剣な声音が含まれている。 そのことに気付いたラブの口から、弱気な言葉の吐露が止まる。 「なあ、ピーチはん、さっき、あんさんはパッションはんのこと、 好きだと言わはりましたよな?」 「うん……それがどうしたの?」 「あのな、さっきのあんさんの理屈だとその気持ちだって嘘っちゅうことになるで?」 「え?なんでそうなるの?そんなことは……」 「いーや、あんさんさっき言うたやないか、変わっていく中で気持ちも変わるって。 ピーチはんだって、まだまだ子供や、大人やあらへん、例外やないで」 「違う……」 「違わへん、たまたま最初に好きになった人がパッションはん、そーゆーこっちゃ」 「違うよ!なんでそんな事言うの?あたしはせつなが好き、 これはあたし中にある確かな気持ちだもん、 嘘じゃないってことくらい自分でわかるよ!そんなことを言うタルトは……」 感情が溢れ出す。 言われたくない事を言うタルトに対して、拒絶の言葉を吐こうとするラブ。 それを察しながらも、タルトは冷静に言葉を返す。 「そやな、自分の気持ちには嘘はつけへん、あんさんの気持ちは あんさんにとって確かなものや。 ……それはパッションはんにとっても同じやと思うがな」 「……え?……あ」 浴びせられた言葉に、ラブはハッとする。 そう、ラブがせつなを好きという気持ちは嘘じゃない、ラブの本心だ。 だったら、せつながラブを好きだ言うのなら……それはせつなの本心に決まっている。 「んでな、パッションはん、正直あんさんの言うとおり、 まだこの世界のことをよくわかってへん。 時々ピントの外れたことをすることもあるさかいな。 でも、ピーチはん達の中に上手く溶け込んでやっていっとるやろ? 例えばや、ベリーはんともパインはんとも、 最初あんなにギクシャクしてたのに 今はすっかり仲良しこよしや。 それは、パッションはんがちゃんと相手を見て、理解して、 そのお人に合わせた付き合い方が出来取るからやと、ワイは思う。 せやから、最初に出会っただけ、付き合いが長いっていうだけで 刷り込みみたいに誰かを好きになるような事はあらへん。 もし、パッションはんに想われてる幸せもんがいたとしてや、 そいつがパッションはんの事をそんな風に思ってるとしたら、相当失礼なやっちゃで」 一気に言い終えると、そのままラブのことをじっと見据えるタルト。 いつに無い真剣なその視線を受け止めて、ラブは自分の心の中にあるもの探す。 タルトが促している、答えを。 やがて辿り着いたそれを、おずおずと切り出す。 「あたしは、せつなの好きな人だってことに、もっと自信を持っていい、ってこと?」 ラブの出した回答にタルトは上出来や、と頷いてみせる。 「そういうことや、パッションはんに好かれとるという所にもっと自信を持って、 ガッツリいったればキスの一つや二つ、朝飯前っちゅーもんやで。 ま、それが出来ないピーチはんがヘタレ、っちゅーことやな」 そう言いながらラブの横に来たタルトは、しっかりしいや、と手でその背中を叩く。 細くて小さな手だけに痛くは無かったけれど、彼なりの励ましの気持ちがつまった一発、 それがラブの心に響く。 「うん、タルト。あたし頑張ってみるよ」 「そや、それがええ、それが青春ちゅーもんや」 「なんか今日はいっぱいタルトに助けられちゃったね。ありがと」 「なーに、礼にはおよばへん」 右手の人差し指を立てるとそれを左右に振ってみせるタルト。 「ピーチはんにはワイの方がよっぽどお世話になっとるさかい。 ラビリンスとの戦いの時なんかは一方的に守られるだけやしな。 そやから、悩み聞くくらいお安い御用や、いつでも相談しなはれ」 もう一度、張った胸をドーンと一回、力強く叩いてみせる。 「うっ!やっぱ強く叩き過ぎた……ゲホッ、ゲホッ」 やはり格好付けたつもりが思わず咳き込んでしまうタルト。 「あははは……タルトったら」 その姿を見て笑うラブ。 そんな一人と一匹の姿を見ていたシフォンは、 「セイシュン?アマズッペ~?」 先日覚えたばかりの言葉を口にするのだった。 「それにしても……ヘタレかあ。タルトに言われるとは思わなかったな」 「さっき言うたやろ、恋愛のことならピーチはんよりよっぽど経験しとるって。 そんなワイから見れば、キス一つにビクついとるあんさんはヘタレで充分や」 「じゃあタルトはちゃんとしてるの?」 「おお、こないだスイーツ王国に帰った時はドタバタしとったさかい、 そんな暇も無かったけどな、こっちに来るまではそりゃーもう 一日中ちゅっちゅちゅっちゅしとったもんや」 「…………………………」 「なんやその沈黙とその目は? まあええわ、ピーチはん、明日ちゃんとパッションはんにキスしてあげるんやで。 それで仲直りや」 「うっ……」 タルトの言葉にラブが沈黙する。 「でけへんのか?」 「……う、うん、まだ、ちょっと……」 胸の前で人差し指を突き合わせてながら、上目遣いにラブが答える。 「はあ?あんさんさっき頑張ってみるってゆーたないか?」 「だって~せつなとのファーストキスなんだよ?はじめてなんだよ? あたしにも心の準備ってのが必要だし、失敗しないように 練習ちゃんとしないといけないし、 息が臭くないようにちゃんとも口の中キレイにしておきたいし、 どうせなら一生の思い出に残るようなロマンチックなシチュエーションにしたいし、 ……って色々考えちゃうとまだまだ無理だよ~」 「……ピーチはん、ヘタレにも程があるで」 「ねえタルト、キスしなくてもせつなと仲直り出来る方法教えてよ~」 「えーい知らん、自分でなんとかせい!」 目を潤ませて懇願してくるラブを一蹴するタルト。 しかし、表情を緩めるとふっと笑いかけてみせる。 「……と言いたいところやけど、その辺は多分大丈夫やと思うで」 「え?なんで?」 タルトの言葉の意味がわからず、首をかしげるラブ。 「まあ、心配せんでもピーチはんの気持ちはちゃんと伝わっとると。 そういうこっちゃ」 「???」 そう言いながら、わけがわからない、という顔をするラブの事を置いておいて、 窓の方を振り向くタルト。 その目に一瞬映ったのは、窓ガラスの外から除き込んでいた人影が、 あわてて隠れる姿だった。 その日の深夜。 一人と二匹が眠りにつき、すっかり静かになったラブの部屋。 その中が一瞬、赤い光で満たされると、そこにせつなの姿が現れる。 せつなは、ベッドの上で眠りこけるラブに近づくと、 チュッ とその頬に口付けた。 それは、お互いの気持ちを交換する唇同士のキスでは無く、 相手に自分の気持ちを伝える一方通行のキス。 「……今はこれでいいわ、ラブ」 ラブがまだ一歩を踏み出す勇気が無いというなら、 自分もまた同じ場所で待っていよう。 気持ちは教えて貰ったのだから、焦る必要はない。 一緒に同じ一歩を踏み出せばいいのだから。 「それに、今しか出来ないこともあると思うから」 今の関係だからこそ、またラブの気持ちを疑って不安になることもあるだろうし、 誰かに嫉妬することもあるかもしれない。 ラブを振り向かせようと必死でアプローチしたりもしてしまうだろうし、 逆にラブに思わぬところでドキドキさせられるかもしてない。 そんな山あり谷ありの経験を得て、そしてキスすることが出来たなら。 それはきっと、今するよりもずっと甘くて、ずっと幸せなキスになるに違いない。 「だから私……待ってる」 そしてせつなは、来た時と同じようにアカルンを起動させて部屋に戻ろうとする。 「……うん、せつなぁ……あたし達二人で、幸せ、ゲットしようねぇ……」 「!?」 応えるラブの声。 「……え、ラブ、起きてたの?」 全部見られてた。そう思い、焦ってラブに声を掛けるせつな。 しかし返事の代わりに聞こえてきたのは、寝息の音。 「もう、びっくりさせないでよ」 どうやら寝言だったようことに、ほっと胸を撫で下ろす。 (……それにしても、なんの夢を見てるのかしらね?) にへへ、と頬を緩ませて眠りこけているラブの顔。 彼女の中の夢の光景までは伺い知ることは出来ないが、 その幸せな夢の中に自分がいることが嬉しくて、 そして、偶然とは言え自分の言葉にラブが応えてくれたことが嬉しくて、 せつなはもう一度、ラブの頬にチュッ、と口付けた。 「……そうね、ラブ、私達で、幸せになりましょ」 それは、先程とは違う意味のキス。 相手の言葉に応える誓いのキスだった。 <終わり> 6-510は外伝的お話
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/196.html
「おはよー、せつな!今日も1日よろしくね。」 「おはよう、ラブ。こちらこそよろしく。」 私がラブの家に住み始めてから、もう何十回目の朝を迎えたのだろうか。 朝のあいさつもよそよそしかった最初の頃に比べて、今ではごく普通に交わしている。 今日は中学校の行事である、職場体験学習の1日目だ。 「ラブ、ジャージ姿で登校なんて何か新鮮ね。」 「うん、せつなは何を着てもサマになるねぇ。」 「ありがと・・・って、ちょっとラブ!それって褒めてるの?からかってるの?」 「さあ、どっちかしらね~あはは!」 走って逃げていくラブを追っかけているうちに、学校に着いた。 朝のホームルームが終わり、学年全員が校庭に集まった。 私たちは同じ体験先ごとに数人ずつ連れ立って行った。 幼稚園に行くのは私とラブのほかに、他の2クラスからいずれも女子が2人ずつ。 「この子があたしのクラスに転入してきた、せつなだよ。」 「東せつなです。はじめまして。」 彼女ら4人は、ラブやクラスメイトが羨ましいと言っている。そんなに私って人気者なのかしら? 話をしながら歩くこと十数分、目的地の幼稚園に到着した。「クローバーようちえん」と書かれた看板が見える。 昨日ラブと一緒に見たアルバムの表紙と同じ名前だ。 「ねえ、ラブ。ここがラブが通ってた幼稚園なの?」 「うん、そうだよ。いやー、昔を思いだしてきたよ。」 私たち6人は職員室を訪れた。先生方にあいさつした後、中学のクラスごとに2人ずつに分かれた。 私とラブは年少組の担当だ。3人の中で最も若く見える女の先生が迎えてくれた。 「四つ葉中学から来ました桃園ラブです、よろしくお願いします!」 「同じく東せつなです。どうぞよろしくお願いします。」 「ラブさんに、せつなさんね。私はこの幼稚園の年少組の先生よ。よろしくね。」 「はい、先生。」 私たちは先生に連れられて、年少組の教室へ移動した。 しばらくすると、園児が1人、また1人と教室に入ってくる。 私たち2人に気付いたのか、大きな声であいさつしてきた子もいた。こちらもおはよう、とあいさつを返す。 「はい、全員そろいましたね。みなさん おはよー ございます!」 「せんせー おはよー ございます!」 先生も園児たちも、聞いたことのないイントネーションでゆっくりしゃべってる・・・どして? 「今日はね、みんなのお姉ちゃんたちが幼稚園に来てくれました。」 「ラブお姉ちゃんと、せつなお姉ちゃんです。それじゃ、自己紹介よろしくお願いします。」 「みなさん、おはようございます!桃園ラブです。」 「ラブって、ちょっと変わった名前だけど、あたしはこの名前が大好きだよ!みんなよろしくね。」 「おはようございます。東せつなです。」 「私は幼稚園に来たのは初めてですけど、みなさん仲良くしましょうね。」 「はい、よくできましたー。みんな拍手ー!」 私たちは園児たちから拍手の祝福を受けた。 ただあいさつしただけなのに何だか照れくさいわ・・・。 「さあ、みなさん。今日はお絵かきをします。」 「今回のテーマは『ぼくの・わたしの好きなヒーロー・ヒロイン』です。」 「みなさん、おうちからお手本となる物を持ってきましたか~?」 「は~い!」 園児たちが元気に答える。中にはヒーロー物の人形を高々と掲げる男の子もいた。 「それじゃみなさん、これから画用紙を配りますので、もらった人から描いて下さい。」 「ラブさん、せつなさん。画用紙を配るのお願いね。」 ラブと私は先生から画用紙をもらい、園児たちに1枚ずつ配っていった。 みんな「ありがとう」とお礼を言って受け取ってくれた。 入園して半年足らずでこんなにお行儀がいいなんてスゴイわ・・・。 「ラブさん、せつなさん、画用紙配りご苦労さま。よかったら、あなたたちも一緒に描いていかない?」 先生が私たちにも絵を描くように勧めてきた。 「あ、あたしはエンリョしときま・・・」 「ラブ、せっかくだから描いていきましょ。美術の自主制作だと思えばいいじゃない。」 「う、うん。ホントにせつなは真面目だなー。じゃあ、お願いします。」 先生から画用紙と色鉛筆を受け取り、お互い向き合って椅子に座った。 「せつなー、あたしたちお手本になる物を持ってないよー。一体何を描けばいいの?」 「ラブ、これがあるじゃないの。」 「あ、そっか!リンクルンの画像フォルダね。せつな、あったまイイー!」 「お世辞はいいから早く描く題材を決めて。描ける時間は少ないわ。」 リンクルンを開き、保存されている画像をチェックする。 テーマに一番見合った画像を決め、完成イメージを思い浮かべて色鉛筆を動かす。 ラブもどうやら描く絵を決めたようで、リンクルンと画用紙を交互に眺めながら絵を描き始めた。 「はーい、みなさん。絵は描けましたか~?」 先生の言葉と共に、描いた絵の発表タイムがやってきた。 「じゃあ、みなさんより先にラブお姉ちゃんとせつなお姉ちゃんの絵から見てもらいましょうね。」 「まずは、ラブお姉ちゃんからどうぞ~」 「わは~、自信は無いけど一生懸命描きました。それじゃ、見て下さい!」 ラブは教室の前方にあるホワイトボードの前に立ち、自分の描いた絵を全員に披露した。 少女漫画チックに描かれたその絵には、笑みを浮かべ両手でハートマークを作っている女の子の姿が。 描かれているのは・・・私? 「あら~、ラブお姉ちゃんはせつなお姉ちゃんを描いたのね。よく描けているわ。」 「てへへ、ありがとうございます。この笑顔のせつながあたしのヒロインです!」 (まあ、ラブったら・・・ありがとう、うれしいわ。) 「さあ、次はせつなお姉ちゃんの番よ。」 私は最前列へと移動する。 途中でラブとすれ違う際に軽くハイタッチし、ウィンクでエールをもらった。 「私も絵を描くのはあまり得意ではないのですが・・・みなさん、見て下さい。」 絵が描かれた画用紙を自分の胸の前に掲げる。 しばらくすると、「おおーっ」とか「すごーい」などの声が聞こえてきた。 「せつな、これあたしだよね?ダンスレッスンのシーンか~。」 「せつなさん、あなた上手だわ。今にも絵の中のラブさんが動き出しそうよ。」 「あ、ありがとうございます。ダンスをしているラブが一番輝いているから・・・。」 ラブが私のもとにやってきて、両手を前に出すように促す。 私も描いた絵を教卓に置いて、ラブに向かってそれぞれの手を差し出した。 ラブは右手、次いで左手で私の逆の手を握り、こう話し掛けてきた。 「せつな、あたしを描いてくれてありがとう。本当にありがと・・・。」 私に感謝の言葉を述べるラブ。その目は潤んでいるようだ。 「ううん、私にとってのヒロインはラブしかいないから・・・。」 「せつな・・・!」 「ラブ・・・。」 つないでいた手を離し、ラブが両腕を大きく横へ広げたその時だった。 「せつなさん、ごめんなさい!」 私は先生に突然左腕をつかまれ、脇へと逸らされてしまった。 敵の気配を感じる事が得意な私も、この時ばかりは無警戒だった。 私をつかみ損ねたラブが軽くよろける。 一瞬静まり返る教室。 「ラブおねえちゃん、かっこわるーい!」 「ホントだー、あははは!」 「せんせー、グッジョブ!」 園児たちからいくつもの言葉が発せられた後、教室は笑いの渦に包まれた。 一方、ラブは顔を赤くして呆然と立ち尽くしている。 「ラブ、いつまでそうやってるの?」 「だって、せつなぁ~。」 「ラブさん、ごめんなさいね。子供たちが見ている前で、あれより先は続けてほしくなかったの。」 「先生・・・。」 「あなたは少し恥ずかしい思いをしたでしょうけど、みんなの顔を見てごらんなさい。」 園児たちは先程の爆笑劇からか、皆楽しそうな顔をしている。 「ラブ、あなたいつも言っているでしょ。」 「・・・何、せつな?」 「みんなで幸せゲットだよ!って。まさに今がそうじゃない。」 「そうだね。そう思えば何だかやる気がわいてきたよ!」 「よかった。ラブが元気になって。」 「さあ、絵の発表タイムの続きよ。今度は子供たちの番ね。」 私とラブはそのまま教卓の両脇に用意された椅子に座り、園児たちが絵を見せに来るのに備えた。 子供たちにとってのヒーローやヒロインって誰なんだろう、と楽しみにしながら。 ~つづく~ 4-381へ